

上勝町の桶の中で起きていること。乳酸菌発酵の秘密


7月、上勝町の山々に蝉の声が響く頃、私たちの作業場は独特の熱気と香りに包まれます。
「少し酸っぱくて、どこか懐かしい香り」 初めて嗅ぐ方は驚かれますが、これこそが阿波晩茶の命である「発酵」が始まっている合図です。
お茶なのに、まるで漬物のように作る。 今回は、大きな木桶の中で静かに繰り広げられている、微生物たちの物語をお話しします。
世界でも珍しい「後発酵」という製法
なぜ「茶葉」を「漬ける」のか?
一般的にお茶と言えば、摘んですぐに蒸すか炒るかして乾燥させます。 しかし、阿波晩茶は全く違います。
- 茶葉を釜で茹でる
- 揉んで繊維をほぐす
- 大きな桶に隙間なく詰め込む
- 重石をして、空気を遮断する
この「空気を遮断する」工程こそが最大のポイントです。
H3:植物性乳酸菌の強さ
桶の中で増えるのは、植物性の乳酸菌です。 牛乳などの豊富な栄養がある場所で育つ動物性乳酸菌とは違い、茶葉という質素な環境で、しかも酸素がない状態で生き抜く菌たちです。
この「過酷な環境で生き抜いた強さ」があるからこそ、阿波晩茶の乳酸菌は、私たちの体に入っても胃酸に負けず、腸まで届きやすいと言われています。
農家だけが知っている「桶との対話」
樽を開ける瞬間の緊張感
漬け込んでいる数週間、私たちはただ待っているわけではありません。 樽の様子を毎日見守ります。
発酵が進むと、茶葉の色が鮮やかな緑から、美しい山吹色へと変化します。 表面にふつふつと泡が立ち、香りが変わってくる。 「今年は暑いから、もう少し早く上げようか」 「いや、もう少し酸味を乗せよう」
この見極めには、マニュアルがありません。 その年の気温と、菌のご機嫌を肌で感じ取る。これが農家の腕の見せ所であり、阿波晩茶が「工業製品」になり得ない理由です。
よくある質問(発酵について)
Q. 発酵しているということは、アルコール分はありますか?
A. いいえ、アルコール発酵(酵母の働き)とは異なる「乳酸発酵」が主役ですので、アルコールは含まれません。お子様でも運転前でも安心してお飲みいただけます。
Q. 保存中に発酵が進んで味が変わりますか?
A. 完成した茶葉は天日で完全に乾燥させているため、常温保存で勝手に発酵が進むことはありません。ただ、熟成されることで角が取れ、まろやかになる変化は楽しめます。
自然の営みを、一杯のお茶で。
微生物たちが醸し出した酸味は、人工的な味付けでは決して出せない、奥深い味わいです。 上勝町の空気と時間が作り上げた「飲む発酵食品」。 ぜひ、その酸味と香りを味わってみてください。

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